友人、知靖(トモヤス)の言葉に僕は頭をかいた。
「多分夢見が悪いんだ」
「何この歳で怖い夢か?」
わからない。
起きてしまえば夢の内容など忘れてしまう。
ただただなんとも言えぬ切迫感と息苦しさに、つい目を覚ますのだ。
寝不足からくる鈍い頭痛に眉間を揉んでいると、知靖はからかうようだった表情を元の真顔に戻し、「辛いのか」と聞いてきた。
「なに、問題ないさ」
「それなら良いが。
あまり無茶してくれるなよ?
お前の原稿が今本誌じゃ一番融通がきくんだから」
「わかっているよ」
引っ越してすぐ、僕が手紙を書いた相手は他でもない彼だった。
幼い頃今居る家を離れ転居した先の向かいの家が知靖の実家であったため、彼とはその頃からの馴染みなのだ。
短く刈られたざんぎり頭に吊り気味の小さな目。
頭よりも体力の方が重宝されそうながっしりとした身体付きの青年なのだが、たまに鋭い。
そして彼から聞く限りでは、彼は僕の書く文を気に入ってくれている。
なんでも器用にこなす男だが、気の良い付き合いやすい男だ。
「にしても本当に顔色が悪いな。
何か憑き物に憑かれたんじゃああるまいな」
「まさか」



