彼女が先程まで居たと思しき場所には本棚からごっそりとおろした本が積まれ、まるで小さい塀か敷居のようにその人一人分の空間を確立していた。
その空間に開かれたままの古い本が置かれている。
覗き込むと、確かにそこには虫が喰った跡が痛々しく残っている。
しかも、大分酷い。
「酷いでしょう?
お蔵の本棚の陰の方に落ちていた物みたいで、もう随分喰われてしまって」
「これではもう内容を読み取るのは無理ですね」
そのページに指を挟んで表紙を見ると、大分傷んで痛々しくはあったが、見覚えのある題だった。
学生の頃図書室で読んだ覚えのある題のこの本は恋愛小説だ。
もう縦横無尽に食い尽くされたこの本にはそれとわかる文字は明確には見つけられない。
まるで、
「…まるで文車妖妃だ」
「え?」
その空間に開かれたままの古い本が置かれている。
覗き込むと、確かにそこには虫が喰った跡が痛々しく残っている。
しかも、大分酷い。
「酷いでしょう?
お蔵の本棚の陰の方に落ちていた物みたいで、もう随分喰われてしまって」
「これではもう内容を読み取るのは無理ですね」
そのページに指を挟んで表紙を見ると、大分傷んで痛々しくはあったが、見覚えのある題だった。
学生の頃図書室で読んだ覚えのある題のこの本は恋愛小説だ。
もう縦横無尽に食い尽くされたこの本にはそれとわかる文字は明確には見つけられない。
まるで、
「…まるで文車妖妃だ」
「え?」



