気付いた途端、少し肌が粟立った感覚がした。
その声は恐ろしく虚ろだったのだ。
いつも穏やかな中にも多彩な感情の動きを見せる平常の彼女と接していた自分が、何故その声を彼女のものだと判断できたのかが不思議な程、その声は無表情で足元から這い上がってくるようなほの暗い冷気を漂わせている。
表情のない彼女の声は、まるで幼い子供が声を揃えて何かを読み上げる声にも似ている。
僕は、息をする音さえ無意識のうちに潜め、本棚の中を進みだした。
気配を潜めようとすればするほど、見つかることが恐ろしいような気がすればするほど、鼓動は聞く間に速く打ち始め、まるで警鐘のようにこめかみをジンジンと圧迫する。
目の辺りはやけに熱く、喉は干上がったように渇いているのに汗を握る手先は冷たかった。
タッ…タッタタタタ…ッ
「…!?」
突如として聞こえた、本当に微かな音、小さな裸足が石を叩くような音に心臓どころか体まで跳ね上がり、思わず出かけた悲鳴は干上がった喉では声にならなかった。
しかし、それが原因だろう。
辺りに響き渡っていた声がぴたりと止んだのだ。



