(そう云えば、そんなこともあったよな。) …数年前のことを思い出しながら、藤次は刷毛を持つ手を止めた。 今でも長屋住まいだが、そこには赤ん坊の泣き声が響く。 「おー、よしよし。」 出かけた妻の代わりに、風車のおもちゃを持ってその子をあやす。 ふと見上げた障子の向こうには、赤い番傘がにこやかに佇んでいた…。 『番傘の浪人』終。