とろけるチョコをあなたに

 幸い、焦がした鍋は一つだけだったので別の鍋を使えば作業ができそうだった。

「しかしなあ。そんなに苦手なら市販品でも良かったろうに。前にも言ったけど、下手な手作りよりも市販品の方が美味いし、それでいいと思うんだが」

 調理器具を用意しながら、気になっていた事を絵理に尋ねてみた。

 ここまでコンプレックスを持っていながら、何故手作りチョコを渡そうなどという無謀な事をする気になったのだろう。

「……バレンタインというものは、恋人同士にとって特別なものだと聞いたからだ。私は、青司に恋人らしい事が何一つできない。恋人らしい、というものがどういうものなのか、未だに理解できていないからな。
 だから、せめて慣習という手本があるときくらいは恋人らしい事をしたかったのだ。
 多分……んは……いから」

 か細い声で付け加えられた絵理の言葉の最後の部分は断片的にしか聞き取れなかった。

 恋人らしくない、か。あれだけ隙のない空気を作り出しておきながらそんな風に思っているなんて、笑わせてくれる。