オレは身を翻すと慌てて給湯室に向かった。勢いよく引き戸を開けると、給湯室に充満していた焦げ臭い煙がなだれ込んできた。

「絵理! 大丈夫か!?」

「陣!? こ、こら! 入って来るでない! くつろいでいるように言ったであろう!」

 慌ててはいるが元気な返事が返ってきて、オレはひとまず安心した。

 改めて現場の状況を見てみると、ガスコンロには焦げ付いてお釈迦になった鍋がそのまま置いてあり、電子レンジは煙を上げて昇天している。

 爆発音は電子レンジが天に召された時の断末魔だろう。

 中を確認するとチョコレートが入ったステンレスのボウルが不自然に端に寄せられた形で置いてあった。

 鍋の内側には焦げ付いて油分が分離した無残なチョコレートの残骸がこびりついている。

 オレが絵理に向き直ると彼女はばつが悪そうに顔を逸らした。

……そう言われてみればオレは絵理が料理をしているところなど見たことがなかった。