「あの子カワイイじゃん」


野太い男の声に、ハッとした。


そうだ。北原。


焦って辺りを見回すと、北原はスパイクを履くための椅子に座って、笑顔でオレを見ていた。


「ごめん」


30分以上も、こんなところにほったらかしちゃって。


「気に入るの、あった?」


しかし、北原はまったく怒っている様子もなく、優しい笑みを浮かべていた。


「今日は下見。今度、買いに来るから」


もうここにいるのはヤバイ、とオレは店を出た。


「その時、また一緒に来てもいい?」


え――?


オレは耳を疑った。


「……ダメ?」


不安そうにオレの顔をのぞきこむ、北原。


「いや……いいよ」


嬉しすぎて崩れそうになる顔を、オレは北原から逸らした。