舌を出してからかうものだから、鶫の怒りが沸騰しそうだ。
そんな2人をなだめながら、今度は豊がいつもの涼しい顔で怪談を始める。
「昔ね…。この村には、それはそれは綺麗な女の人がいたんだ」
豊の物静かなしゃべり方は怪談にとても合っていて、その場にいたみんながごくりと唾を呑む。
建てつけの悪い障子が、風でカタカタと音を立てた。
「村中の若い男が、その人に夢中だった。
ある年、その中でも一際身体が丈夫だった男とその女の人が結婚することになった」
笹丸は膝を抱えてうずくまっている。
いつもだったら草太がそんな笹丸をいじめて楽しむのだが、今はそんな余裕も無いようだ。
「ところが結婚してから男はどんどん身体が弱っていった。寝たきりの状態になってしまって、医者でもその原因はわからなかったらしい」
鶫の顔色が真っ青だ。
草太も、歯をがちがちと震わせている。
染は瞳を輝かせながら話の続きを待っていた。


