─お侍様には、つまらない話かも知れませんがな。

私には若い頃、まみと言う許婚(いいなずけ)がおりました。

ええ、昔はこれでもちょっとした御曹司で通っていたものですからね。

可愛い娘でしたよ。色が白くて、瞳が円ら(つぶら)で。

え?ええ、ええ、そうです。

そうですねぇ、互いに好きあっておりました。

仕合わせでございましたよ。

はは…と、和尚は恥ずかしそうに頭を掻いた。

和尚のくせに惚気話か。と、咲重郎は多少呆れはしたが、その笑顔には何となく好感が持てた。

─いやいや、ただの惚気話ではないのです。

…ところで、御人。

妖怪、を信じておいでか?

や、私は信じてはおりませぬ。

獣(けだもの)が、人を化かすだなんてね。

しかし。

…だからこそ、お話しするのでございますよ。

嫌な感じが、した。