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「…眠れないので?」

「あぁ、」

夜も更け、最早時間も分からなくなって来た刻、和尚がそう言って訪ねて来た。

客間で眠れずにがさごそやっていたから、心配してやって来たのだろうと咲重郎は思った。

和尚は、別段男前と言った訳でもないが、何となく可愛いげのある男だった。

「それはいけない。どうです、ひとつ、話でも。」

「……?」

「ここの所なかなか話し相手に恵まれなかったものでねぇ。なに、老いぼれの昔話ですよ。」

老いぼれ、と言うには、和尚は若い様に思われる。

肌や髪は艶があり、声にも張りがある。落ち着いた物腰は、かえって好ましい程だ。

何にせよ、自分も心細かった故、和尚の提案は有り難かった。

その旨を告げると、和尚は目元に柔らかい微笑を浮かべた。