─旦那様、どうしてそんな暗ぁい顔なさるんです。

人斬りのようですよ。

どきりと、心の臓が鳴る。

ひやりとしたが、それはまるっきりの冗談だったようで、女は、からからと笑い声を立てていた。

咲重郎を傘に入れると、女はよく話し、よく笑った。

その仕草一つ一つに、咲重郎はおしづを思い出す。

その傘女の色白が、

心中しようと斬り殺した挙句、その亡骸を置きざりにしてきてしまった遊女のおしづに、

少しだけ似ていたからかも知れない。

─夕暮れ刻はよく妖が出るって言うけどね、旦那様、このあたりはね、徳の高い和尚様が護って下さっているから

なんにも心配することはないよ。

咲重郎が黙っているのをどう勘違いしたのだか、女はそんなことを言い出した。

ふと、愛人を斬り殺した男もか。と口にしそうになって、咲重郎は息を呑み込んだ。