朝が来た。

咲重郎は、すぐに支度を済ませると、和尚に懇ろ(ねんごろ)に礼を言って寺を出た。

江戸に、引き返すつもりだった。

昨夜の和尚の話しや、和尚の存在、この村、そしておしづを妖怪に化かされたせいにしたら、どんなにか楽だろうと思った。

しかし、幾度振り返っても村は有るし、寺は見える。

和尚は今日も、変わらず仏道に励むのだろう。

(咲重郎さん、)

江戸から逃げて、どうしたかったのか、分からない。

これから帰って、どうしたいのかも、分からない。

(咲重郎さん。)

ただ、おしづをきちんと弔ってやりたかった。

海でも、山でも良い。
綺麗なところに、墓を作ろう。

罪を背負って、生きてみるか。

後を追って、死んでみるか。

それから、決めようと咲重郎はぼんやり考えた。


─咲重郎さん。