咲重郎は、叫び出したかった。

(自分の内に、妖がいるだって!?)

膝の上で強く握りしめた掌は、血の気がなくなり、節が白く成っていた。

─咲重郎殿。

人は、知らないところで皆それぞれ腹の底に

妖や獣を飼っているのかもしれん。

そう、思いませんか。

和尚は、何もかも見透かしたように笑った。

(お前が俺の娘を殺したのを知っているぞ。人殺しめ。)

咲重郎は、和尚がそう思っているのではないか、急に不安になった。

相変わらず、和尚は悲しげに微笑している。

(咲重郎さん、)

おしづには、妖怪の血が流れていたのだろうか。

(咲重郎さん、)

和尚には、妖怪の血が流れているのだろうか。

(咲重郎さん。)

そして、

人殺しの己の腹の底には、果たして、何かがいるのだろうか。

─不気味な話しなぞしてしまって本当に申し訳ない。

時々、自分一人だと、狂ってしまいそうになるのです。

私が妖なのか、否か。

妻が妖なのか、否か。

半身の娘は妖だったのか、否か。

分かりませんし、悟れません。

しかし、

私は、娘を河へ捨ててしまった。

それは紛れもない、

事実なのですから。