「それで?」

男がいる部屋で着替えることもできず、彼が部屋から出て行くとも思えず、ゆいは椅子に座りながら制服のまま訊ねた。

「私へ用事って、なに。大したことじゃなかったら承知しない」

「おー怖」

漫画を閉じて枕元に放った燈哉が、体を起こす。切れ長の瞳が、やや長い前髪の内側からゆいを見据える。彼はあぐらを掻き、両膝に手を突いた。

「ちょっとな、気になる噂だ」

「だから、とっとと話してよ」

「慌てなさんな。デリケートな問題だぜ? すでに被害者が数名出てる」

「被害者……なによ、事件? だとしたらパース。私、期末の勉強したいのよ」

最近はすっかりと日が長くなった。新しい生活にも慣れ、新しい教師にも慣れた。煩わしい梅雨も去り、気持ちの緩んだ生徒の大半は夏休みへと心が飛んでいってしまっているが、その前には期末テストという敵が待ち構えているのだ。

それは、同じ学校に通っている千里ヶ崎燈哉も同じはずである。

「ま、それもそっか」

と、燈哉はあっさり折れた。デリケートな問題とやらを話すことなく、また人のベッドに横たわり、例の少女漫画を開く。

少し拍子抜けした。