寮マンションから出たところで、ポケットに親指を引っかけている燈哉が不服そうに「おい」と唸った。

「あれ、どういうつもりだよ」

「あれって?」

「護符だよ、護符。お前はリアリストじゃねぇのか、特殊風紀委員さんよ。あんなバッタモン掴ませて、なに考えてんだ?」

「別に、陰陽師としての仕事をしたまでよ?」

答えた途端、「へっ」と燈哉が鼻を鳴らす。

「陰陽師、イヤじゃねぇのかよ」

「そうね。やだわ。でも、陰陽師が必要なこともあるのよ」

「さっきみてぇにか」

「ご名答」

答えつつ、空を見やる。気付けば空は純粋な青ではなく、彼方から少しずつピンク色に染まり始めていた。このまま鮮やかなオレンジ、紅、そしてなまめかしいすみれ色、厳かな藍色へと変化していくのだろう。

風には、夜の湿り気もかすかに混じっていた。

「どんな励ましよりも効くものよ。迷信っていうのはね」

「ただの紙切れで人を騙して、よく言うぜ」

「やあね。アンタもこっち側の人間なら、気休めって言いなさいよ。少なくとも本人達があれで大丈夫だって思っとけば、精神症状は緩和されるでしょ。病は気から、よ」