家の鍵が、開いていた。母親も父親もまだ帰ってきていないはずなのに。

普通なら泥棒を警戒するが、宮部ゆいは落ち着いていた。落ち着いて、怒ることにした。

玄関を開けるとやはり、履き古された男物のスニーカーがかかとを揃えてあった。階段をのぼり、二階の自室へ入ると、案の定、スニーカーの持ち主がベッドの上に寝転んでいる。勝手に人の本棚から取った少女漫画を読んでいた。

千里ヶ崎燈哉――それがこの侵入者の名前であり、栗色のショートカットがトレードマーク。宮部ゆいの幼馴染みである。

彼が他人の家の鍵を勝手に開け、勝手に人の部屋でくつろぐのはいまに始まったことでもなく、溜め息もつく気になれない。

わざと無視し、ゆいは学生鞄を机に置いた。視線は、手元のまま。

「やめて、って言ったはずだけど?」

「なにを?」

「勝手に家に入るの。犯罪だから」

「うん、悪い悪い」

ゆいが彼を見ないように、彼も、漫画から顔をあげていなかった。

尽きたはずの溜め息が、やっぱり顔を出してくる。