小春日和

「小春、どうしたの?」

放心状態の私の肩を、母が揺らす。


「ごめん、なんがネギが目に沁みて…」


泣いているのを悟られないように、私は大袈裟に顔をしかめ、近くにあったフキンで涙を拭った。

「やぁね、それ、フキンよ?ティッシュ使いなさい」


お母さんが呆れ顔で私にティッシュを一枚差し出す。


私は、「やだぁ、汚い〜」とおどけてフキンを放り投げだ。


いつからだろう、両親に本音を語らなくなったのは。


自分の中だけで問題を解決できるようになったのは。


泣きたい時も、笑っておどけられるようになったのは。


「どれ、あとは母さんがやったげるから、小春はヒヨリと遊んであげなさい」


まな板の前から私を押しのけると、お母さんは料理の続きに取りかかった。


あっという間に野菜を細かく刻んで、鍋にお湯をわかす。その合間にお皿を出したり、ゆで卵の殻をむいたり、洗い物をしたり…。


カチャカチャと小気味良い音をたてながら、手早く作業する。


いつもは、おっとりとしているお母さん。なのに、台所に立つと、妙に頼もしい。


「ほら、ぼんやりしてないで」


振り返ったお母さんに促され、私は慌ててヒヨリのもとに駆け寄った。


ヒヨリは、テレビの中で歌う子供たちに合わせて手拍子をしている。


私を見ると、いかにも嬉しいとばかりに、顔をくしゃしゃにさせて笑った。