春風が、花の甘い香りを運んで、通り抜けていく。




40枚入りの紙オムツは、意外にも重くて、ひっかけた手首に、ビニールがギュッと食い込んだ。


背中には、全体重を私に預けたまま、ぐっすり眠る愛娘の日和(ヒヨリ・通称、ひぃたん。間もなく9ヵ月)。


重いなぁ…。
前は、もっと軽かったのに。


ずり落ちてきそうなヒヨリを起こさないように体制を整える。


ふと、前方から聞こえてくる高らかな笑い声に、顔を上げると、自転車に乗った女子高生2人がやってきた。


「宿題マジだりぃ!」


「つか、あたし、髪の毛明日まで染め直して来なきゃ、授業受けさしてくんないとか言われたよ。ありえないしぃ!」


彼女たちとすれ違う瞬間、私は思わず、俯いてしまう。



羨ましいなんて思わない。
思ったら、いけない。


だって、これが、私の選んだ道だから…。


そう思い直し、背中のヒヨリをもう一度しっかりと背負い直した。


それから、深く深呼吸して、顔を上げ、空を仰ぐ。


あぁ、気持ちいい。
なんて穏やかな、小春日和…。