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幼い彼は、生きることに執着していた。名前と身体と命だけが、自分の持物だった。

両親と兄、そして妹が居たのは覚えているが、父は戦で死んだ。母は兄と妹の為に泣きながら彼を売った。

売られた先の娼館で、彼は全てを投げ捨てた。誇り。愛情。そして最後には感情。憎悪も嫌悪も忘れてしまったのだ。ただ、相手を悦ばせる技術だけを身につけた。それが彼にとって唯一の『生きる道』であったから。戦争があるから、戦争のせいで。苦痛からはその言葉で簡単に逃げることが出来た。戦争がなければ、こんな苦痛等味わわなかったのに。母も好きで自分を売った訳ではなかったのに。


非力な自分には、権力も優れた武力も無い自分には、戦を終わらせる事など出来ない。その事実は、彼に歪んだ絶望を与えて現実から目を背けさせた。