恐怖で死ねるなら昨日死んでた



私には生涯付き纏うだろうトラウマがあります。




まだ言語も的確に定まっていない頃の話です。
なので私の記憶には無く、トラウマだけが深々と刻まれています。

小さい私は大叔父の見舞いに行きました。
一つ半違いの妹が生まれて一年もしない夏のさなかに家族総出でしたから、既に大叔父は余命幾許も無かったのでしょう。

顔見せも終わり、庭を歩いておりました。
大叔父の家は岡の上にあり、見事な庭園が有ります。
大叔父は広縁に揺り椅子を置きその庭を眺める程度しか出来なかったそうで、庭はこれでもかと言うほど手入れされていました。
小さな妹と母を庭の一角のテーブルセットに置いて、父が私を連れて巡ります。
隣家との境には林が有り、見回しても母屋と庭園と林と空しかない世界をゆっくりと下り降ります。

母の耳に突然、私が火のついたように泣く声が聞こえました。
転んだのだろうと思ったのですが一向に泣き止む気配がなく、その声は恐怖を表しています。
見下ろしてみるものの築山に遮られた私が見えず、父の首を傾げる様だけが見えます。

母が駆けつけてみると、何で泣いているのか分からないといった父と、蝉の脱け殻を胸に付けて青ざめた顔で助けを求めて泣く私がいました。


そう。
私が生まれて初めてみた蝉は、
死んでいるような
妙に存在感を放つ
訳の分からない
私の胸にくっついて
こちらを凝視する
茶色い脱け殻だったのです。


それ以来…なので物心つく前から、蝉は恐怖対象です。
節足と複眼のセットもダメ。


知ってる?
本物のトラウマって胸が裂けるような音がするんだぜ?(マジ泣)



因みに父は「子供は"探偵バッチ!"って喜ぶものだろ?」と宣いました。
今だに天然DQNなヒキTVオタやってる我が父に、いつかトラウマを植え付けてやるのが今の所生きる目標です。



話しそれた。

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