「思い出した。詐欺だ」
マーナオが不意に呟く。

「何の話だよ」
ゆかりがそこまで言ってから、慌てて口をつぐんだ。
ゆかりは烏帽子を被らず髪を垂らして、直衣の代わりに姫装束を着て座っている。

今のゆかりはどう見てもむらさきの頃の姿で、マーナオにとっては嫌な思い出をほじくり返されている感覚だ。
「人を騙すのを詐欺と言うんだろう?」

マーナオの言わんとするところを理解して、ゆかりは返す。
「知恵と策です。今の私はこの屋敷の姫ですよ」
深窓の姫らしい声音と言い方だった。


どうもゆかりにとって引っかかる単語らしいので、
「詐欺師」
マーナオは追加する。

「黙って隠れてなさい」
下手に動けないゆかりは、怒りながらも攻撃出来ない。
マーナオは良い攻撃手段を得たと少し満足した。これ以上追撃はしないが、後で使おうと記憶にしまう。


なぜならば二人は今、仕事の真っ最中なのだった。