一歩一歩、確実に近づいている。 あと三人。 あと二人。 あと一人……。 「ありがとう」 お客様からのその言葉を最後に、外界からの音が遮断された気がした。 響く胸の鼓動。 ありえないぐらいの緊張感が体から体温を奪ってゆく。 視界に映るのは二人組のスーツを着たサラリーマン。 手には書類を持ち、二人でそれを指さしながら話をしている。 声が上ずらないように、口に意識を集中させる。 「お客様、ドリンクはいかがでしょうか」 気付かないで。 振り向かないで。