「私、そろそろ帰ります。今日は突然お邪魔しました」


 すると、直道は引き止めたのだが、直道のママはこう云った。


「直くん、我儘はダメよ。凛花さんとは明日も学校で会えるじゃない」


「そうだねママ。じゃ凛花、また明日学校で」


 玄関で靴を履き、一度振り返ると、直道のママは般若のような形相をしている。
 凛花は身震いすると、逃げるように直道の自宅を後にした。


 二年後、とっくに直道がマザコンだということは証明されていたが、学校やデート中に問題があるわけでもないので、直道の自宅には行かないようにして付き合いを続けていたのだけれども、別れよう、別れたいと思う出来事がとうとう起きた。

 高校を卒業する間近に訪れた私の誕生日、直道と一緒に遊園地へ出かけた。
 楽しく過ごしているところ、相変わらず直道にママからの電話。いつものことだと思っていたのだけれど、直道は電話を切ると私に云った。


「悪いんだけど、ママが俺に早く会いたい、待ってられないって泣いてるから帰るよ。悪いな」


 今日は私の誕生日だし、一日くらい私を優先してくれたっていいじゃない。
 滅多に怒らない凛花だけれど、この時ばかりは頭にきた。


「今日くらい私と一緒にいて欲しいのに。ママには帰ったら会えるじゃない」


 すると、直道は端整な顔を歪めた。


「それは、凛花とママ、どっちを取るか迫ってるの? 冗談じゃない。もしそう訊かれたとしたら答えは明白だ。ママに決まってるだろ」


 直道は初めて怒ったかと思えば、捨て台詞を残し、帰ってしまった。

 あぁ、本気で直道が怒るのは『ママ』に関することを誰かに云われた時なんだ。
 ママ大好き男……か、そう思うと凛花は吹っ切れたような気がした。


 結局、凛花は直道と約三年の恋人期間に終止符を打ったのである。