そういう考えとは裏腹に、凛花は何となく胸騒ぎがしている。

 牛丼を食べ終わると、お会計になったのだが、彼は帰ることなく財布を出した。

 見てはいけないとは思うけれど、つい横目で彼の財布の中身を見てしまった。そして、やはり見てはいけないものだったと、後悔することになる。



 20円……。彼の財布の中身は20円だった。

 お札入れを開いてから、小銭入れを開いたから間違いない。彼は20円しか持っていないんだ。


「ごめん。俺今20円しかないから、290円貸してくれるかな?」


 その時、凛花の頭に浮かんだ言葉は、20円男……。

 凛花は初デートを最後に、幸隆とのたった一日の恋人期間に終止符を打ったのは云うまでもない。

 浩平より上を行く最短の別れだった。