それから二日後、相変わらず浩平は、朝の電車も同じ、帰りは会社の前で偶然会う。
 やはり会社から出てきた凛花を待っていたかのように、浩平が立っている。


「また偶然だなぁ。今俺も営業の帰りでさ、一緒に帰るか」


 偶然にしては変じゃないだろうか。営業の仕事をしている浩平が、毎日偶然、こんなふうに凛花の前に現れることなんてあり得ないことだ。

 気になっていた凛花は思い切って訊いてみた。


「ねぇ浩平、あなた本当に営業の仕事してるの?」


「何云ってんだよ! 仕事してるに決まってるだろ!」


 浩平は先日の電話の時と同じく、怒鳴り散らした。


「そんなに怒鳴らなくたっていいじゃない」


 凛花がスタスタ歩き出すと、後ろから嗚咽が聴こえてくる。

 何? 

 慌てて振り返ると、そこには道路で泣き崩れた浩平がいた。

 会社の前で、こんなに泣かれても困ると思い、凛花は慌てて浩平の腕を掴み、少し歩いたところにある喫茶店に向かった。

 テーブルを挟み、向かい合って腰を下ろしたが、浩平はまだ俯いたまま泣いている。
 そして泣き止むのを待って、凛花は口を開いた。 


「もしかして、本当に仕事」


 すると、凛花の言葉を遮るように、再び浩平は赤ちゃんのように大きな声で泣き出した。

 ビックリして、一瞬何が起きたのか分からなかったが、浩平は嗚咽を漏らしながら答えた。


「本当は……ひっく……会社なんて行ってないんだ……ひっく……高校と大学は他県だったから……ひっく……凛花に近づけなくて……でも凛花と付き合いたくて……ひっく……だから俺は……ひっく……やっと」


 ――やっと私の尾行を出来るようになったとでも云いたいのだろうか。
 店員や周りの客に見られ、恥ずかしくなった凛花は、浩平の腕を掴んだ。


「いいから、外で話そう」