桜花舞う春の日、俺は道場の稽古場へと呼び出された。


『…君が彼の有名な沖田君かね。』


其処に居たのは、近藤さんと…見慣れぬ初老の男が一人。


『…お話とは?』


未だ状況が掴めない俺は、正座をしたまま近藤さんを真っ直ぐ見つめた。


『ああ…実は、だな…』


近藤さんが珍しく口篭る。
其の様子を見て、初老の男性が口を開いた。


『沖田君の剣の腕を見込んで、頼みがある。』


其の眼差しがあまりに真剣で、俺は思わず息を飲んだ。


『頼み…ですか?』


『そうだ。』


『一体どんな…』




『…剣術指南役として、白河藩に来て貰いたい。』



『……え?』



剣術指南役…
俺は其の言葉を、頭の中で数回繰り返した。




『君の剣術の腕は天才的だと聞いている。君の右に出る者は、もはや日本に居ないであろう。…そこで、だ。これからまだ成長するであろう若い衆の稽古を、沖田君につけて頂けたらと思っている。もちろん、それなりの礼はするつもりだ。』


初老の男は畳み掛けるようにそう告げた。

近藤さんは、未だ苦笑いしたまま腕を組んでいる。



『…有名な藩の剣術指南役故、将来も安定した生活が送れるだろう。…。どうだね、悪い話では無いだろう?』




…確かに、条件としては決して悪い話では無い。
しかし--


『…近藤さんは、どうお考えですか?』



道場を離れる事は即ち、近藤さんの傍からも離れると言う事だ。


『…そうだな。総司が決めた道なら、俺は何も言わねェよ。』


溜息混じりに言葉を紡ぐ近藤さん。

それは何処か、諦めの表情にも見えた。



『…君も、いつまでも井の中の蛙で居たくないだろう?』



初老の男性が、身を前に乗り出す。



『…返事は三日後で構わない。また来るよ。』



そう言うと、近藤さんに挨拶をして道場を出て行ってしまった。