あたしは自分で涙を拭うと、

唇の両端をきゅっと閉じて、頷いた。



気づくと
あたしの中を巡っていた鉛の液体は、

いつからか――――河野さんが涙を拭ってくれたその時から、

あたしの中から綺麗に消えた。




…いや、


消えたのではなく
きっとあたしの中に溶け込んだのだろう。



河野さんの、不器用な手の甲があたしに触れた時、

散々巡り巡っていたそれは、

ほんのり色づく桜色の色水になり、

さぁっと音を立てて、あたしの中にしみ込んだ。



体中が色水で染められるのを

気持ちが悪いとか、居心地が悪いとか、

そう思う事は、もう、ない。




色水を吸った小さな花の蕾が、

しっかりと、確かに、

あたしの胸に根付いていたのに、気がついたから。