―しかし、ナイフが陽日を傷付けることはなかった。

「なっ!?」

遊間の腕を、陽日の手がしっかりと掴んで止めたから。

「はぁ…。ヤレヤレ。ようやく出られたな」

陽日の声なのに、陽日ではない。

顔を上げた顔も、陽日のそれではない。

「ったく。ギリッギリで出しやがって…。後で説教もんだぞ? 陽日」

「…陽日?」

陽日の変貌ぶりに、遊間は動揺する。

「あっ? ちげーよ。俺の名前は…」

恐るべき力で、自分を押さえ込む連中を引き剥がしながら、彼は笑った。

「月夜だ」