住んでいる街を見渡せるこの高台は。
「おう」
「…な…んで」
あたしと流衣の秘密の場所。
いつもの特等席には、先程別れた筈の流衣の姿があった。風が流衣の髪を揺らして、そのままあたしの頬を撫でた。
「絶対ここに来るだろうなって思ったし、その格好じゃ帰るの大変だろうし、…1人で悶々としないように来た」
「1人で…考えたいって…」
「邪魔なら無視していい、俺が居たいから居るだけ」
流衣は意地悪ね。…貴方を邪魔だなんて思う筈がないのに。
いつもと違う落ち着いた雰囲気を纏う流衣に慣れなくて、少し隙間をあけて、隣に座った。
「…流衣」
「俺、今、空気。だから、何言っても平気だから。泣いても、怒っても、空気だから見てねえよ」
「…ふふっ、そんな喋る空気なんていないわよ」
「うっせ」
昔、稽古に失敗した小さいあたしの手をひいて、流衣が連れてきてくれたこの場所はあたしを唯一丸裸にする。

