中は、いつもは、あたしたちの目に触れない場所だからか、物が散乱していたけれど、茶道のお道具がたくさん置いてある。
戸口は、すでに閉められて、紫苑が鍵をかけた。さっきまでの騒ぎが嘘かのように、しんとしてた。
父様への想いで涙が溢れそうだったけれど、今は、そんなことしてられない。
「こんなとこ…始めて…だわ」
千世がよく何処からもともなく現れたのは、この隠し通路があったからなのね。
「よし、行くぞ!!」
少し薄暗い通路を足早に進み始めた。
薄い壁の向こうからは、人が走り回る音が聞こえる。
「皆様!」
「千世さん…っ」
少し道が開けた空間に千世が立っていた。それを見ても、また、涙が出そうになった。
「千…世…っ」
「ふふ、お嬢様にもう『千世は瞬間移動が出来るんですよ』というのは言えなくなりましたね。この通路がバレてしまいましたから」
いつもと変わらない千世の笑顔の温かさに、涙腺は壊れた。
「皆様、私の後ろの戸口から出ますと裏庭に出ます。車はもう来てました。使用人用の戸口なので小さいですので、お気をつけ下さい」
そう言って後ろの戸口を指差した。

