「どけよ」
「…どいて」
音弥とナツが、一歩足を踏み出すと彼らは怯んだように一歩下がる。
…後ろからも声が近付いてくる。挟み撃ちにあったら、もう逃げれない。
頭に父様と母様の顔が浮かび、さっきまでの決心が揺らぐ。…あたし、本当は戻らなきゃいけないんじゃないの。明らかに、渡瀬家の不祥事。相手側も勿論、良い気なんてしないだろうし。むしろ、不快感を露にするだろう。…そしたら、始末をつけなきゃいけないのは、現当主の父様。
「流衣…っ!!やっぱり…!」
「心!!」
いつもは使わないお手伝いの方が使う通り道から父様が…現れた。
「父…様!!」
「何してるんだ!早く行かないか!」
でも、この廊下を真っ直ぐ行かなきゃ、裏には出れないのに!
「中に入って真っ直ぐ進めば、千世がいる!千世なら案内して、外まで導いてくれる!」
「父様…っ」
「心、わたしは誰の父親だ?渡瀬家のじゃない、心のだぞ!どうして、娘の幸せより家の繁栄を優先するなんて出来るか!!」
「……やるじゃん、心のおじさん」
音弥がにやりと笑って、流衣をその小さな戸口にあたしと流衣を押し込んだ。

