「ねえ、千世、何があるの」
「…」
「千世、早く戻らなきゃいけないの。何があるか教えてちょうだい」
「…」
さっきから、ずっと話しかけてるのに何の返事もしない千世に不信感はつのる。いままで、こんなことなかったのに。
「千世、怒るわよ?聞い…っ」
「心」
─……響いた、その声に、体が固まる。
千世、…なんてことをしてくれたの。
「…流衣」
「心」
「今日、渡瀬家は関係者以外立ち入り禁止なの。帰って…ちょうだい」
「……」
妙に懐かしく感じる流衣。そんな切なそうな顔しないで。せっかくの…。
「心、本当に…いいのか?」
決心が揺らいでしまう。
おかしい、おかしいわ、あたし。来てくれたことが…嬉しい、なんて。あたしは、今日、前に…。
「心、…お前の声、聞かせて」
進ムハズダッタノニ。
「流衣、おねが…」
「やだ、心がほんとのこと言うまで離さねえ」
いきなり抱き締めてきた流衣の腕は、いつのまにこんなにも男らしくなったんだろう。

