優しそうな方だった。年はあたしの4つ上の有名大学に通われてる。眼鏡の奥の温かい理知的な瞳が印象的で、照れたように笑う。
容姿も、才能も、お家柄も、何一つ文句の付け所もない。
「心さんは高校生だと聞きましたが」
「はい、高校に入学したばかりです」
「羨ましいことですわね、一番楽しい時期だもの」
旦那様も奥様も、息子がこのように育つのが良く分かる。優しい素敵な方々。
何を、これ以上求めるというのだろうか。
この方と一緒になれば、必ず幸せな未来が待っているだろうに。
あたしは、この期に及んでまだ何を欲しがるのだろうか。
両家の間では会話の華が咲き、終始和やかな雰囲気が漂っている。
お父様もお母様も叔母様も笑っていらっしゃる。
これが、あたしの…望んでいたことの筈。
「…お嬢様」
「…千世?どうしたの?」
千世が顔を伏せながら、近くに寄ってきた。
「今すぐに、…御手洗いのところに言ってくださいませ」
「…?」
何故か囁くかのような千世に少し不信感を抱きながら、千世のいつもと違う様子に感じて「少し失礼いたします」と言って千世のあとに着いていった。

