記憶は、…心が休むようになる前日まで飛んでいった。
──数日前
「あら、ナツひとり?」
すでに俺たちの秘密基地状態になった生徒会室のドアを静かに開けて、心が首を傾げながら入ってきた。
「ん。……予算とか決めなきゃだから」
椅子に座ったままクルクル回って口を尖らせ、むすっとした俺を見て心が笑う。
「一応聞くけど紫苑は?」
「……心、意地悪だよ。それ」
「ふふっ。…何年生?」
「高2」
目の前で、しぃを持ってかれた。「借りるね」という言葉だけで。一言で言うとそれだった。
「…だから、待ってるの。そろそろ帰ってくるから」
「ほんとに好きね」
「…今日の心、意地悪だね」
見上げるように視線を心にやると、何故かひどく切なそうな顔をしていて。
「…心?」
「ナツ。ナツは自分で桜を散らしちゃ駄目よ」
心にしては分かりにくい言葉に首を傾げた。
「…桜なんて散らせないよ」
「うん、そうね。ナツにはずっと、そうであって欲しい」
心が伝えたがってる言葉のボールは俺のところまで届いてこない。
「ナツや皆は変わらないで。変わるのは…」
──あたしだけで十分よ。

