<ナツ>
次の日、流衣から聞かされた話に俺たちは、ただただ目を見開くことしか出来なかった。
「ね、流衣…、それ、どうゆう」
震えるしぃの手を握ると、潤んだ瞳で見上げ「ナツ、ナツ」と俺の名前を何度も呼んで、しがみついてきた。
背中を撫でてあげながら、流衣をもう一度見つめる。
「…流衣、それは…婚約ってこと?」
「…そうだよ…っ」
せっかくの青空のした。
気持ちいい風が吹くなか。
サボった数学。
…そんな時に聞きたい話じゃ、ないよ、心。
「それ、どこまで話進んでんの?」
音弥の眉間に皺を寄せた険しい表情。
「今度…顔合わせなんだってさ」
流衣の泣きそうな、悔しそうな表情。
「流衣…!!」
悲しみを切なさを表したかのような、しぃの表情。
そして、ここにはいない、心のきっと我慢した色のない表情。
…俺が…大好きな表情が…ひとつもないよ。
……心。
あの言葉は、このことを知ってた上での言葉だったの?

