「…流衣」
どうして、抗わない?
どうして、泣きもしない?
どうして。
「…なんでだよ、心」
俺たちに話さなかったんだ。
制服を着たままの心は、微笑みもせず、ただじっと俺を見ていた。
「流衣、知っているでしょう?母様は、一般人だったこと」
水面を波立たせないような、囁くような声色に俺は黙ったまま首を縦に振る。
「親戚の反対を押し切ってまで母様と結婚した父様は、ちゃんと言い付け通りに流派の息子と結婚した叔母様に負い目を感じてる」
約束を守ったにも関わらず、結局当主になったのは約束を破った兄。それがどれ程悔しかっただろうか。
「あたしは、父様たちに負い目を感じて欲しくない。辛い思いをして欲しくない。だから、あたしが父様の代わりに約束を守り、渡瀬家の繁栄へ貢献したならば、それに免じ父様たちのことを許すと叔母様は言ってくれてるの」
気付いたら、心は俺の腕の中にいた。
「なんで…っ…心は…っ」
「流衣、痛いわ」
「なんで、そんな…っ」
「……流衣、温かいわ」
無力な俺に。
「流衣、桜は散り時なのよ」
いったい何が出来るというんだ。

