冷たい色を滲ませる厳しい女性の声が裏庭まで響き渡る。
俺は声を辿り、物の陰に隠れながら家の中の一室を覗いた。
落ち着いた掛け軸に、心のお祖母さんが生けた花が床の間に飾られた、大きな畳の部屋。心がよく『ここでお正月とかお祝い事を行うの』と言っていた部屋だ。
そこに、心と心の親父さんにお袋さん、…あと知らない女性が座っていて、奥には泣きそうな千世さんが立っていた。
「美夜子、それとこれとは関係な…」
心の親父さんに“美夜子”と呼ばれた女性はギラッと目を光らせ、冷たい声を再び発した。
「あら、兄さん。けじめはつけていただかなきゃ。貴方が千春さんと結婚した時のけじめを」
「美夜子さん、私は何を言われても構いません。だから、心は…っ」
千春さん…、心のお袋さんが泣きそうに心の肩を抱き、訴えてる。
ここからだと、心は俯いているせいで表情が読み取れなかった。
「叔母様」
そこに心の声が凛と響き渡った。
「…お見合いの件、慎んでお受け致します」

