千世さんが家に引っ込む音が聞こえて、心が庭の砂利を踏む音だけが響く。



「いるんでしょう?流衣、紫苑」

「ここ…」


目の前に心はいるのに。
触れられるところにいるのに。


「心」



お前がすごく遠く感じるのは何でだろう。いつもと何も変わらない筈の心だけど、決定的な何かが変わっていた。



「ここ…」

「ごめんね、紫苑。明日から行くから」

「心…」

「流衣もありがとう」



何で、そんな笑い方をするんだよ、なんて言える筈がなかった。


「ここ…、痩せた」

「あら、そう?」


いつにも増して陶磁器のような白い肌は人形のようで。蜻蛉のような儚さが全身から出ていた。



「心、お前…」

「この桜も…散り時なのね」



何かを決めた瞳。だけど何かを諦めた瞳。




『──流衣、この桜の木の下で待っていたら、また会えるわよね』

『知らね…っ!』

『流衣、──会いたいよ』



なあ、アンタなら今、心に何をしてあげれるんだよ。

俺には、くれない言葉たちと表情を全部貰ったアンタなら何か出来るだろう。


“アンタの”心が消えそうなんだよ。