渡瀬家を囲い込むように立ちはだかる高い塀。それが俺たちの邪魔をする。



「流衣っ、ここ!!登りやす…っ」

「紫苑さん!!スカート!!」

「早く!!あたし行っちゃうからねっ」

「…もう、いーわ。お前…」


塀の窪みに足をかけて、人通りがないことを確認し登り始めると、塀の向こうから話し声が聞こえてきた。



「心様…、やはりここでしたか」

「千世」



なんだか久し振りの心の声に、心臓がとくんと波を打つ。



「…心様、千世は…」

「千世、この木…処分して、欲しいの」


隣で紫苑が息を呑み、俺は黙ったまま頭上で揺れる桃色の花たちを見つめる。


…心、…この木は……。



「お嬢様…っ」

「決めたからには…捨てなきゃいけないものが、沢山あるわ。…この木は勿体無いから…、植え替えて貰いましょう。あたしが絶対行かないような所に」

「千世は…っ!!」


戸惑いに瞳を揺らす紫苑の頭を撫でる。俺だって、混乱してる。

でも。


「この木は…思い出が多すぎるの」


心の声が俺たちと一緒にいるときとは違って、“次期当主 渡瀬心”の声だったから。



心は何か決意をしたんだ、と悟った。