「…何をしている。」

不意に、先ほどまで壁越しに聞いていた声が背中に浴びせられた。
空気が、凍った。

「貴様…聞いていたな。」

私が振り向くと、今しがた部屋から出てきたのであろうバルベールが、開け放したドアの前に立っていた。

その手には、ぐったりとした女。
ジェシカの服を掴んで、引きずって来たらしい。

意識がないようで、彼女は時折小さな呻き声を上げはするが、目を覚まさない。

バルベールが、ゆっくりと近づいて来た。


(…おい、ヤクタ。)

またしても、頭の中でブラッドが言う。

バルベールの目は、異常な光を宿していた。

狂気。

足が、すくむ。
体が、動かない。

私は、目をぎらぎらと光らせながら薄ら笑うバルベールを、見つめることしかできなかった。

「情報窃盗罪、及び、プライバシーの侵害で……」

─あぁ、やばい。

「処刑だ。」

バルベールは、私の腕を掴んだ。

殴られたか、蹴られたか、
そこから先は、



よく覚えていない。