「お邪魔、してます……」

「違う! そうじゃない!」

「初めまして……?」

「違う!」

もうやだモモのバカバカ。


ガックリと肩を落とすあたしは、どんよりと負のオーラも纏う。


「まあ渉のことは気にすんな! ほっとけばその内ケロッとしてるから。とりあえず飲む?」


舌打ちしたくなるほど遠慮なく部屋へ入ってきたおにぃは、テーブルにグラスを3つ置いた。


「で、何だっけ? あ、初めまして? どーもどーも。渉の兄貴です」

「……」

「……桃井 寶です」


さっさと出ていってほしいと思いながらも、気になってちらりとふたりの様子を窺う。


おにぃはまじまじとモモを眺めて、観察されているモモはなんとかそれに耐えていた。


「んー……写真で見たことはあったけど、聞いてたよりは雰囲気怖くねーのな」

「……」

「てか座高……え、身長いくつ?」

「……180ちょっと、です」

「まじかよ俺よりデカいじゃん……。あ、俺2個上だけど敬語いらねーよ?」

「……」

「口数少なっ! ていうか何かもっと反応しろよ! 俺、彼女の兄貴!」

「……知ってます」


思わず吹き出してしまったのは、モモが緊張しているんだと分かっているから。


「ハハッ! モモ……っ緊張しすぎ……!」

「だよなぁ。もっとフレンドリーにいこうぜ? ほれ、笑ってみろ。スマーイル」


「ニッ!」と言いながらおにぃが白い歯を見せても、モモは無表情で無反応。それがまた可笑しくて、あたしは声を上げて笑った。


「笑えって言ってんだろ!」

「や、いきなり言われても……」

「よし分かった。モモ、お前今日笑うまで帰れません」


目を見開いたモモはすぐにあたしへSOSの視線を向ける。


「頑張れ、モモ」

「さあさあ、渉の許可も降りたことだし! とりあえず母親にも逢っとく?」


勘弁してほしいと言いたげなモモには悪いけど、あとで謝るから許してほしい。


今日はまだ、もう少し。

モモといたかったんだ、ってね。


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