「はーあ……」
意味のなさそうな溜め息も。
「色々処分しなきゃなー」
両腕を上げて背筋を伸ばしたり、首を回したり、疲れたと言いたげな仕草も。
「刻印入れた指輪って売れると思う?」
平静を装って言葉を紡ぐ笑顔も。全部、涙を堪える為。泣くもんかっていう、葵の意地。
「……どうせならベタに川とか海に投げに行こうよ」
「それも、ありかな」
気丈に振る舞う葵のことは嫌いじゃない。無理も我慢も出来ればしてほしくないけど、今の葵にとっては必要なことなんだろうなって思う。そうすることで、自分を支えてるんだと思う。
強い、って思う。カッコイイって、さすが葵って思う。
あたしなんかより経験豊富で、七尋くんが初めての彼氏だったわけじゃない。
だけどあたしと同じ女の子で、七尋くんが1番長く付き合った彼氏で。どんなに恋愛したって、どれだけ経験していたって、悲しい時は悲しい。
「はー……もう、ほんと、何これ……」
スン、と鼻をすする葵は、しきりに頬を拭っていた。
「バカみたい。なんで、今更……っ」
「……暗くて見えないから、大丈夫だよ」
滲んでは落ちて、流れては拭って。
もしかしたら葵が歩いてきた道には、ぽつりぽつりと涙の跡が残っているのかもしれない。
すっかり陽は落ちて、外灯だけが道を照らしているけれど。閑静な住宅街では、通りすがる人もいないけれど。
あたしは葵の泣き顔を見て、葵の隣を歩いて、涙が乾くのを待つよ。夏祭りの夜と同じように、今日も明日も明後日も、いつまでも。
「――七尋のこと、ほんとに好きだった……」
「うん、知ってる」
「割と、本気で……ずっと一緒にいると思ってたんだ」
「うん」
「もっと、何回も、好きって、伝えれば良かった……っ」
「……」
別れを選んでも押し寄せる葵の後悔は、あたしの胸さえも苦しくさせた。



