「応援されたくない奴が、渉がいてホッとしたとか言う?」
「……」
「さすが万年赤点組」なんて笑いながら再び歩き出した葵に、試験の点数は関係ないじゃん、って思う。
「渉の姿を見て安心したのは、あたしがまだ迷ってたから。今日、ハッキリ別れようって言える自信がなくて、だから教室で渉に話せなかった」
「……モモと喧嘩したことを気遣ってくれたのかと思ってた」
「それもあるけど。平気なフリをしてたかった、ってのもあるんだよね。自分で別れるって決めたのに、弱気になってるとこ見せたくないじゃん」
半歩遅れて歩くあたしは、斜め後ろから葵の横顔を見続けた。
答えを出すまで多分まだ時間が掛かると葵が言ったのは、ほんの2日前。
「……いつ決めたの? 今日の昼休み、森くんに呼び出されてから?」
「うん、そう。七尋、懲りてないかもって。あたしに浮気バレてから暫くは大人しかったけど、最近また女と電話してるし、出掛けるようになったって。何の証拠もないけど、一応……って教えてくれた」
「それで、別れようって?」
「うん。疑わない自分でいる自信がなかった……っていうか、疑いながら付き合うのは無理だって思った。しんどいなーって」
「……好きでも?」
「好きだからしんどいのかも」
苦笑いを向けてきた葵の隣に並んで、ほとんど真っ直ぐ歩き続けた道を曲がる。見慣れた住宅街は、地元に着いたことを現していた。
「分かんないなー……別れようって思った決定打? 七尋を信じられない自分も嫌で、迷ってばっかの状況も嫌だったし」
「うん」
「でも、このモヤモヤした気持ちが消えて、スッキリして、笑って毎日楽しく過ごしてる自分を想像した時に、そこに七尋はいなかったんだよね。……それだけかも。七尋がいなくてもあたしは笑えるんだろうなって、思っただけ」
葵は何てことないように言うけれど、別れると決めた大きな理由のひとつなんじゃないかと感じた。
きっと本当はいなかったんじゃなくて、近くに、いなかったんだと思う。
「七尋と別れないで済む方法は、いっぱいあったよね」
「……でも、葵が耐えられるとは思えない」
「ハハッ! 言うねー」
「言うよ」
だって葵の声が震えてる。それは泣くのを我慢してるんだって、今更気付いた。



