「あのね……。あたしも最初は怒ってたし、有り得ないって、許せないって思ってたのね? でも、葵と七尋くんの気持ちを考えると、やり直せるんじゃないのかなって思ってた」
「……うん」
「葵が七尋くんを信じられないって言うなら、信じてあげなよって、大丈夫だよって言ってあげなきゃって。葵は七尋くんのことが好きで、その気持ちを1番大事にしたいんだろうなって思ってたから」
「……」
「でもあたしは、別れないの?って思ってた。勝手だけど……。本当は最初っから、心の中でそう思ってた」
「渉は1回も、そう聞いてこなかったね」
「――別れてくれて良かったって、思ってる」
ごめん。こんな励ましにもならない言葉しか言えないあたしで。
「葵にはもっと、もっと、いい人がいるって思う」
ごめんね。こんなありきたりな言葉しか言えない友達で。
何もできないあたしでいいって思ってたけど、本当はもっと、もっと、役に立ちたかった。
葵の為に何かしてあげられるなんて思ってなかったけど、本当はずっと、ずっと、どうにかしてあげたかった。
自分のことだけで精一杯なのに、誰かのことまで、なんて欲張りなのかもしれない。独りよがりの自己満足なのかもしれない。
それでも、それでも。
望まれたことでも、望まれないことだとしても。あたしができることなら何だって、してあげたかった。
葵のこと、1番の友達だって思うから。
あの日、ずぶ濡れになりながらあたしの帰りを待ってくれていた葵は、1番にあたしを頼ってきてくれたんだと思うから。
「今更に聞こえるかもしれないけど……葵が別れるって選択をしたから、言ってるんじゃないよ」
「……分かってるよ。ていうか、薄々気付いてたよ」
段々と小さくなった声に、呆れたように笑う葵の言葉が続いた。
「渉が今日走って追いかけてきた時点で、ああ別れを応援しに来たなってハッキリ思ったからね」
「応援って……まあ、そうなるけど……葵はやっぱ、されたくなかったでしょ?」
ずっと並んで歩いていたふたつの影が、上下に少し離れる。立ち止まったのは葵だと分かっていたから、振り返るのに少しためらった。



