それでも君と、はじめての恋を



気付けば陽は傾き、空は橙色に染まって夜を迎える準備を始めていた。


乗り込んだ電車はいつものように地元まであたし達を運んでくれるはずだったけれど、ひと駅前で「降りない?」と言った葵の誘いにのった。


「でもこの駅じゃ、葵の方が遠回りになるよ?」

「いいよ、そんなこと気にしなくても」


普段とは違う駅へ降りると、葵は両腕を上げて背を伸ばしながら歩き出す。あたしは半歩遅れて葵の隣へつき、地元まで30分近く掛かる道のりを歩いた。


「七尋、全く気付いてなかったよ」

「……ああ、あたしがいたこと? 見えてなかった?」

「よくよく見るといるなーってくらい。七尋は木すら見てなかったけどね」

「気付かれてたらどうなってたかな」

「さあねー。でも、別れ切り出したあとだったら舌打ちでもしそうな感じだったかな」

「じゃあ、あたしも盛大な舌打ちをし返す」


声を出して笑う葵を見てから、足元に伸びる自分の影を追いかけ続ける。


「――ねえ渉」

「うん?」

「あたし、間違ってなかったよね」

「……うん」

「あれで、良かったよね」

「……もし葵が後悔してて、やっぱりやり直したいって言っても、あたしは全力で止めるけどね」

「――……そうなの?」

「だって七尋くんに葵はもったいないもん」


追いかけても追いかけても踏めない自分の影はどうすれば踏めるのかと意味のないことを考えながら、口を動かし続ける。


「だから葵は、どうしても七尋くんとやり直したいってなったら、あたしに言わないほうがいいよ。言ったら喧嘩になるから」

「……渉、あたしと口喧嘩で勝ったことある?」

「ないけど。モモと純、森くんもかな。4人もいれば勝てると思う」

「考えただけで戦意喪失なんだけど」


じゃあやっぱり純を最前線に置こう、なんて。

協力してくれるかなんて知らないけど、仮にそんなことになれば、葵にとってとんでもなく迷惑な話だと思う。だけどそれがあたしの本当の気持ちなんだ。