それでも君と、はじめての恋を



「どこで何してるか、七尋は教えてくれてたけど、本当はどこかで嘘なんじゃないかって疑ってた。そういう気持ちを、自分で見て見ぬフリしてた」

「ちょお待って……葵? 何の話してんの?」

「あの時も、あの時も、ドタキャンされた時の理由は、今は全部……嘘だったんだろうなって思ってる」

「っだから、それは……!」

「……」

「違うって……。嘘、ついた時もあったよ……でも、全部じゃないって」

「うん……ごめん」

「なあ俺どうすりゃいいの? 悪かったって思ってるよ。許してくれんならいくらでも謝るよ。でも葵は……そういうことじゃないだろ? 俺がどうすれば満足してくれんの?」


ふたりの沈黙が、生ぬるい風に乗ってあたしを包み込む。街の喧騒は人知れず、ふたりの沈黙に圧力を掛けているようだった。


行き交う人達が前にしか足を進めないように、時計の針がどんどん進んでいくように、季節も着々と夏から秋へ向かっていく。


振り返ったら、何が落ちているんだろう。

それがもし大切な何かだったら、拾うことはできるのかな。


葵は、拾えた? 手を伸ばしたけど、もう届かなかった? それとも、触れることができなかった?


「――いっぱい考えたよ。嫌になるくらい、考えた」


沈黙を破った葵の声は、震えていたかもしれない。


ずっと前を見つめていたあたしはそっと目を伏せて、色褪せたローファーをぼんやり見下ろした。


「あたしはもう、七尋のことが信じられない」


それが、葵の出した答え。


選択肢はきっと、いっぱいあったはず。


これにしようかなって手を伸ばし掛けて、やっぱり違うって手を引っ込めて。


これでもない、あれでもないって迷って、考えて、出した答えにまた迷って。そんな繰り返しだったんだと思う。


許せないって思いながら。全部嘘だったんじゃないかって思いながら。自分の何が悪かったのか、自分にも原因があったんじゃないかって探しながら。


葵がずっと悩んでいたのは、七尋くんを好きだって気持ちを、何より優先していたからでしょう?


できることなら許せる自分でいたいって。また笑いあって触れあえる、彼女でいたいって。


他の誰よりも七尋くんのことが大好きだから、いっぱい、いっぱい、考えたんだよね。