「渉ちゃんがいる」
席までやってきた七尋くんは柔らかく微笑んで、あたしは慌てて立ち上がる。
「こ、こんにちは! お久しぶりですっ」
「ね。かなり久しぶり」
「ですよねー」
うわぁ会話続かない……!
「あ、っと、じゃあ、あたしはこれで……」
「そうなの? せっかく久々に逢えたのに」
「渉は一緒に待っててくれただけだから」
視線を移すと、葵はあたしを見上げて「ありがとう」と口にした。その言葉に「ううん」と首を振って、鞄を肩に掛ける。
「じゃあ……失礼します」
「うん。またね、渉ちゃん」
昔と変わらない笑顔を見せた七尋くんにぺこりと頭を下げて、足早にその場をあとにした。
……何か、七尋くんに逢ったら怒りが湧きあがるのかと思ってたのに、全然そんなことなかったな。むしろ、どう接すればいいのか分からなかった。
歩道へ出た足はカフェを囲む中木に沿って歩き、2~3人が花壇の縁に腰掛けていて胸を撫で下ろす。
……このへんで、いいかな。
緊張から心拍数を上げつつ、葵に宣言した通りふたりが座る席の近くに腰掛けた。
あたしをふたりの視界から覆い隠すのは、背後にある中木だけ。
葉っぱの隙間から見えてないといいけど……大丈夫かな。
目の前では歩行者が行ったり来たり。背後では、葵と七尋くんが会話をしていた。
ふたりと別れてからここに来るまでの会話は聞いていないから、話の流れは分からないけれど案外普通に喋っているみたいだった。
「そういえば、友達が葵にまた逢いたいって」
「……遠慮しとく」
「まあ、無理強いはしないけど……じゃあ今度ふたりでどっか行くか」
……さっきも思ったけど、七尋くん、ほんとに普通だ。それが悪いというわけではないのに、何だろう……この、気持ち。



