「あたし、あっちいるね」
中木で見え隠れする歩道を指差しながら言うと、葵はぱちぱちと何度かまばたきをする。
「一緒の席にいるんだと思ってた」
「それはさすがに……! ていうか椅子2つしかないし! 近くにはいるっ」
「じゃあ七尋が来るまで座ってなよ」
葵が選んだ席はちょうど目隠しにあたる場所で、椅子に座ると歩道を歩いている人は見えなくなった。
目隠しでもあり、カフェと歩道との境界線でもある中木は、あたしの身長よりも高い。
「七尋くんが来たら、あたしこの木の裏で待っててもいい?」
「歩行者からしたらだいぶ怪しいね」
盗み聞きであることは間違いないけれど、一応公認してもらえたってことでいいのかな?
普段全くと言っていいほど飲まないカプチーノを口にしながら、ちらりと向かい側の席に座る葵を盗み見る。
落ち着いてるようには見える、けど……大好きなカフェオレに口をつけないなんて葵らしくない。
「ここ、初めて来た。葵はよく来るの?」
「ん? あー……うん。七尋との待ち合わせ場所が、いつもここで」
「そうなんだ」
賑やかとまではいかないけれど、明るい雰囲気のカフェに来てる人達の中で、学生服を着てる客はあたしと葵だけだった。
七尋くんの好みなのか、それとも葵が好きそうだと七尋くんが探してくれたのか。何にせよこの場所は、きっとたくさんふたりの思い出があるんだろうな。
「来た」
「え」
あたしの背後を見て呟いた葵から後ろへ振り返ると、七尋くんがこちらへ向かって歩いてきていた。
ゆったりとした濃い色のストレートデニムに、英字プリントされた白いTシャツ。少し癖のある黒髪を隠すハットも、アクセサリーと呼べるのは手首に巻かれた腕時計だけなのも、相変わらず。
久々に見た七尋くんは、ちょっと日焼けしてるかなということ以外、以前となんら変わりなかった。



