それでも君と、はじめての恋を



「……何笑ってんのよ」

「すいまふぇん」


頬をつねられながら謝ると葵は溜め息をついて、あたしの目の前から隣へ移動した。


「……」

「……」

「……ねえ葵。あたし、やっぱり邪魔?」

「うん」

「即答しなくても……」


邪魔なのは分かってるんだけど、と思いながら到着した電車を見やれば、「でも」と葵が付け足す。


「すごい安心した」

「……」

「振り返ったら渉がいて、ホッとした」

「……今は?」


そんな質問は電車のドアが開く音に重なってしまって、だけど先に一歩足を進めた葵が微笑んでくれたから、答えは聞かなくても良かった。






「ここ?」

「うん」


学校の最寄り駅から7駅離れた、数本ある路線全てに繋がる大きな駅。そこから少し歩いて辿り着いたのは、店内テーブル席とテラス席が選べる珈琲中心のオープンカフェだった。


「待ち合わせって何時?」

「あと15分後くらい。テラス席でって、言われた。先に飲み物買いにいかない?」

「あ、うん」


慣れた足取りで店内に向かう葵のあとに付いていきながら、キョロキョロと辺りを見回した。


店内はいたって普通のカフェ。テラス席は路上にせり出してテーブルや椅子が置かれているものの、テラス席を囲むように配置された中木の葉は青々と生い茂って、歩道からの目隠しになっていた。


……隠れられそう。


そんなことを思いながら、葵に薦めてもらったチョコレート風味のカプチーノをテイクアウトして、再び外へ出た。