それでも君と、はじめての恋を





矛盾が生じるのが嫌なら、最初から自分の気持ちを優先していればいいだけの話なんだろうって思う。


自分の気持ちがハッキリしていれば迷うこともないのに、誰か、を考えると別の選択肢や可能性が出てきてしまう。


相手が欲しい言葉。望んでいる現実。


例えそれがあたしは望まないことだとしても、自分からすれば有り得ないことだとしても。それは相手の意思によって確かに存在するもので、あたしが何もかも否定できるようなものじゃない。


分かるけど、でも。
尊重したいけど、でも。


きっと思えば思うほど、考えれば考えるほど、矛盾が足枷になって思うように動けなくなるんだ。



「――っ葵!」


改札口を抜けた背中が振り返ると、教室から全力疾走していた足は一気に重くなって、定期券を持ちながらよろよろと改札口へ向かった。


「良か……追い付い……っ」

「ちょっと、大丈夫!?」


ゲホゴホと咳き込むあたしに駆け寄ってきた葵は手を引いてくれて、帰ろうとする生徒の波から壁際へ誘導してくれる。


「何、そんな急いで走ってきたの? 次の電車でもバイト間に合うでしょ」

「バイトは……暑い……し、しんど……」

「飲み物買ってくる?」


息も絶え絶えに首を振ったけれど、葵はホームに設置された自販機へ向かってしまって、あたしはその様子を見ながら壁に全体重を預けて寄り掛かった。


間に合って良かった……ていうか先に電話しとけば、走らなくて済んだんじゃ……。


「はい」

「ごめん……ありがと……」


冷えたお茶のペットボトルを受け取って、有難く水分補給させてもらう。そのままペットボトルを熱のこもる首元に押し当てて、深く息を吐けば葵が「で?」と聞いてくる。


「今度は何事?」

「えっと……葵を追いかけに」

「見れば分かるんだけど」

「ですよね……」


もう一度呼吸を落ち着かせるために何度か息を吐きだして、うっすらと額に滲む汗を拭った。